ついつい考えすぎて、動けないなんていうことありませんか?
目の前の物事をいちいち複雑に考えすぎる傾向が、現代人にはあるようです。
インターネットやSNSの発達により、情報があふれる環境であるからこそ生じる副作用のようなものなのかもしれません。
本書「小さな悟り」で掲げるテーマは、人生の本質を見いだすための、余計な考え・迷い・情報を取り除いてシンプルに生きるためのヒントです。
「小さな悟り」とは、誰にもある日常に目を向け、改めて感謝して生きること。
あたりまえにある日常こそが、「幸せ」であると見つめなおすひとときを、あらためて体感なさってみてはいかがでしょう。
仕事、人間関係、将来への不安などの問題をシンプルに生きやすくするためのコツを、印象に残った3編をもとにひも解いていきます。

枡野俊明(ますのしゅんみょう)1953年生まれ。曹洞宗徳雄山健功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学環境デザイン学科教授。
著書に「心配事の9割は起こらない」「仕事も人間関係もうまくいく放っておく力」など。
小さな悟り 抜粋&レビュー
大事なことは会って伝える
禅では「面授」といって、師匠が弟子に教えを授けるときは、顔と顔を突き合わせることを重視しています。
本文中より
コミュニケーションとはそもそも、心を通い合わせること。
近年では、人と人との関係性が希薄になりつつあるともいわれます。
何か伝えるときも、電話やメールが便利ですし、SNSの発達もあるでしょう。
文字による交流は、速くもあり正確性もあります。
しかし、イメージのように抽象的で微妙なニュアンスなどを伝えるには、文字だと力不足です。
また、親しみや尊敬、好意のような感情も、文字で表現し伝えるのはむずかしいでしょう。
現代に生きる私たちは、デジタル特有のスピーディかつ正確性を利用しながらも、じっくりと深みあるアナログ的な伝達方法も、時と場合によっては活用しない手はないでしょう。

電話やメール以上に、実際に顔と顔を付きあわせることで伝わることもあります。
おたがいの熱量を感じるって、実際に会えばこその体験!
人対人とのかけがえのない感覚は、いつの時代でも大切にしたい手段です。

順境もよし、逆境もまたよし
気持ちが腐りそうになったら、「逆境もまたよし」とでもつぶやいてみてください。
本文中より
与えらえれた境遇の中で生きていく気力が湧いてきます。
生きてると思いどうりにいかないことってたくさんあります。
努力したのに報われない。
期待どうりの結果とならず落ち込む。
「無常」という言葉は仏語で、万物は常に同じ状態をとどめることはなく、流転をくりかえす世のはかなさを表現しています。
人の意思にかかわらず、すべてのものごとは必要とされる方向に流れていると考えると、悩んだり、腐ったりすること自体が無意味とも考えられます。
そうはいっても、やっぱり悩み、落ちこむこともあります。
人は感情を持つ生き物です。
落ち込んだときは、おもいっきり落ちこめばいい。
悩んだら、おもいっきり悩めばいい。
しかし残念ながら、すぐにその悩みが解決することはないでしょう。
なぜなら、悩むということは、解決策が自分の経験のなかに無いからです。
だからといって、悩むという感情にフタをしないこと。
自分は今、「悩んでるんだ」と認めてあげましょう。
認めてあげられると、一歩踏み出す気力が出てくるはずです。
時間が解決したり、新たな解決策がみつかったりもします。
その過程のなかに、自分を活かす道もかならず見えてきます。

1年前に悩んでいたことを覚えてますか?
解決できないことだから「悩み」となるんです。
悩むということは、必死にもがきながら前進しようとしてるってこと。
歩み続ければ、その先に解決策もあります。
なにごとも、後から振りかえれば「順境もよし、逆境もまたよし」です。
自信をもって、今を生きよう!

失うものなど何もない
人としての原点に返ったとき、「失うものなど何もない。命があれば十分だ」という気持ちになれるはず。
本文中より
この”小さな悟り”ほど、人を強くするものはないのです。
詩人で書家の相田みつをは、このような詩を残していらっしゃいます。
生まれたときはまるはだか 死ぬときはそれも捨ててゆく
相田みつを作品集 生きていてよかった より
私たちは体ひとつで生まれてきます。
見栄やプライド、我や権力、名声やお金。
生きていくうちに様々な「我欲」が、身に染みこんでいきます。
そして染みついた「我欲」を失うことに恐れるようになります。
失うことの恐怖心は、冷静な判断力を曇らせ、ときに人道を外れ狂わせてしまうこともあります。
「生まれたときはまるはだか 死ぬときはそれも捨ててゆく」
この言葉とともに、失うものなど何もないとの覚悟に立てば、生き方もシンプルなものとなります。

出世したり、お金を持てるのはとても嬉しいこと!
しかし、死ぬときには持って行けず、すべて捨てていくことになります。
地位や名声、財産などは一時的な価値にすぎず、人生は永遠ではない。
幸せの価値は人それぞれだけど、本当に大切にすべきは「何か」を考えつづけよう!

本書を読み終えて kou’sレビュー&まとめ
「悟り」というと、一部の人が厳しい修行のうえに体得できる高貴な思想ととらえがちです。
ここでいう「小さな悟り」とは、世の原理原則に沿って生きるというシンプルな考え方です。
太陽がのぼって夕日に沈むとともに、生きとし生けるものの活動も自然の原理原則に沿って行われています。
動物たちに出世競争なんてありませんし、植物たちに鳥のように飛びたいなどという感情はありません。
見栄やプライド、我や権力、名声やお金を得たいといった「我欲」は人間だけに与えられた感情です。
「我欲」は負の面もありますが、人生の目標に向かうためのエネルギーとなる一面もあります。
「小さな悟り」とは、「我欲」を持つなということではなく、その感情も人間があたりまえに持つものとして、自分の人生に活かしていくことにあります。
経営の神様と称される松下幸之助は、このような言葉を残しておられます。
雨が降れば傘をさす
松下幸之助 道をひらく より
雨が降ってきたなら、濡れないように傘をさす。
人として、あたりまえの思考と行動をするところに、充実した人生をまっとうするための原点があるのではないでしょうか。

「悩み」はときには苦痛ともなりますし、できれば悩むことなくいられたらとも考えます。
しかし「悩み」は乗り越えるためのハードル、自己成長のきっかけという側面もあります。
向上心の強い人ほど、悩みはつきないともいえますね。
そんなときこそ、少し立ち止まって「小さな悟り」を得るきっかけとなれば幸いです。

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