怪談 びたり  深津さくら 書籍レビュー

怪談びたり kou'sレビュー Kou’s特選!おすすめ本
著者/深津さくら 発行所/株式会社二見書房

怪談を読む

「怪談」という表題に、吸い込まれるようについつい手がのびてしまったのは、表紙に惹かれたか、よくある怖いもの見たさか、それとも不思議なご縁なのか・・・
まさか見えざる何ものかに誘われてしまったか・・・

本書は、シチュエーションごとに分けて語られる、短編怪談集です。
おどろおどろしい恐さや、幽霊の存在を押し出したたぐいの恐怖ではなく、何気なくいつもある日常の隙間にするりと入り込むように遭遇する、恐怖談や奇談の数々を体験できます。

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私の怪談話

本書を読んでみて、私が中学生の頃、家族でとある借家に住んでいた時の少し怖い体験を思い出しました。
詳細は割愛しますが、あるきっかけを境に家の中で奇妙なことが起きるようになりました。

誰もいないはずの部屋からうめき声がしたり、縁側から衣ずれのような音が聞こえたり、私は家族以外の「なにか」の気配を家の中に感じていました。

当時は得体の知れない気配に子供心に恐怖を感じ、学校から帰宅しても家族の誰もいないことがわかると、家には入らず近所のお菓子屋で家族の誰かの帰宅を待っていたことを思い出します。
別の事情で2年ほどで引っ越し、以後、このような現象には遭遇していませんが、現在でもその家は現存し、住人もいらっしゃるようです。

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この体験は後に家族に説明してもなかなか理解してもらえません。
はっきり言えることは、そこに「何か」がいると確信するほど存在感があり、その瞬間には恐怖はありません。
しかし次の瞬間、「自分以外誰もいないという現実」を思い出したとたん、とてつもない恐怖が押し寄せてきます。

とにかく「何か」が存在しているという現実と見間違うリアルさがあったことを今でも覚えています。
あの時の音と光景は、今でもカラー映像のようにくっきりと記憶に刻まれており、今後も忘れることはないでしょう。

これが心霊体験とするならば、時には怪現象というものは私たちの日々の暮らしの中でも現実とも区別がつかないかたちで、常に存在しているといってもいいのかもしれません。

これを読んでいるあなたも、気付かぬうちにすでに異界に踏み入れているかもしれません。

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家の怪

子供の頃、深夜にトイレに向かう時の心細さや、押し入れ、倉庫の中が気になったり、誰もいない和室、階段の先の闇などに理由もなく恐怖を覚えた経験はないでしょうか?
一章目のこの章では、私たちが当たり前に生活する住居にまつわるエピソードが語られます。

  • 玄関ドアにびっしりと貼られた張り紙の謎「宮崎のマンション」
  • 見えざるものへの対処方とは・・・「塩」
  • 留守の兄の部屋に泊まった弟の恐怖体験「兄の部屋」
  • ある日、部屋の方隅に突然現れた着物姿の子供の正体は・・・「古い家の子供」
  • 三兄弟の周りに起きる怪現象の行く末「三兄弟」
  • 興味半分で心霊スポットに忍び込む若者たちの身に起きる恐怖の体験「田中家」
  • Y字路の家に起きる謎の怪現象「Y字路の家」
  • 大きな皿が訴えかけることとは・・・「大きな皿」
  • 換気扇からのぞき込むものの正体は「羽のむこう」
  • 深夜、車庫のシャッターをこじ開け侵入する者の怪奇談「カラーひよこ」
闇のkou
闇のkou

「羽のむこう」は、子供のころを思い出して震えてしまいました。
小学生の頃、住んでいた家は、父親の経営する会社の事務所と倉庫を併設した2階建ての古い家で、会社の倉庫は木造のとても大きくて古く、トイレに行くためには夜は真っ暗闇の倉庫を横目に長い廊下を歩かねばならず、とても怖かったのを思い出します。

施設の怪

誰しも日々利用する、様々な施設、職場、など公共の中に潜む怪現象。
目的をもって利用するもの、無目的に徘徊するもの、悪ふざけに利用するもの、状況はそれぞれですが、怪異はいやおうなしに訪れ、異界へと誘います。
いつもの景色が一変するとき、それは異界への一歩を踏み入れた瞬間かもしれません。

  • 録音スタジオで起きた高校生たちの異変「アニメーション」
  • 研究所で起こる怪異の謎「研究所」
  • 老人介護施設での怪現象とは・・・「回廊」
  • 仲よし3人組を襲う九州旅行での恐怖体験「ビジネスホテル」
  • 僧侶に襲いかかるホテルでの恐怖「僧侶とホテル」
  • 興味半分で訪れた心霊スポットでの怪現象「雨音」
  • 古民家喫茶のアルバイトで遭遇した怪異な出来事「古民家喫茶」
  • 商店街で出会った懐かしくも不思議な出来事「アーケード」
  • 事故物件サイト閲覧中に起きた怪現象「美容室」
闇のkou
闇のkou

「古民家喫茶」はとても怖いです。
ラジオのノイズ音のように気色悪く、まとわりつくようにゆっくりと忍び寄ってくる怖さです。
例えるなら、歩いていてクモの糸が顔にからんできて振り払う経験は誰にもあると思いますが、そんな嫌悪感を感じる怖さです。

路上の怪

怪現象は場所を選ばない。
大勢が行き交う屋外、道路、何気ない日々の光景の中に恐怖は潜んでいるかもしれません。
今、見た光景は? 今、聞いた声は? 今、見た人は? 今、話した相手は?
はたして、この世のものだったのでしょうか?
この章では何気ない光景の中にある怪を語ります。

  • ある骨董市で手に入れた古い振袖に起きた異変「振袖」
  • 旅先で出会った絵馬が引き起こす怪異「絵馬」
  • 怪談イベント参加後におきた異変「運搬」
  • 怪談会中に呼び出す電話の相手とは・・・「変な電話」
  • 怪談会の最中頻発する怪現象「怪談会」
  • 川からついてきたものとは・・・「鴨川の飛び石」
  • 死者と接することができる者に課せられるおきてとは・・・「おきてと指輪」
  • 夏のある日、街中で遭遇した幽霊の感触とは・・・「幽霊の感触」
闇のkou
闇のkou

「幽霊の感触」は、トリハダが立ちました。
幽霊と聞くと、「見える」とか「感じる」というのが一般的ですが、「感触」とはどういうことだろうと読み進めました。
とても短いエピソードですが、冷たくて無味乾燥とした怖さを体験できます。

野の怪

人里はなれた自然の中にも異界への入り口は存在し、そのほの暗い口を開けてあなたが来るのを待っているかもしれません。
旅先で出会う美しい風景や、何気ない人との交流の中で感じた違和感は、時には異界へと誘いこもうとする異形なる存在によるものの仕業なのかもしれません。
この章では、旅やドライブなど誰しも楽しむであろう、余暇の中に潜む怪異な現象のエピソードが語られていきます。

  • 4人の若者が世釣りに出掛け、恐怖の体験をする「夜釣り」
  • ドライブがてら興味半分で訪れたトンネルでの恐怖「清滝」
  • 夫婦は、なぜか惹き付けられるトンネルを再び訪ねるが・・・「村のトンネル」
  • 山道を自転車で急ぐ女子学生の奇妙な体験「カーブ」
  • ある家庭に夜な夜な現れる背の高い女性の因縁話「小さな墓」
  • 夜釣りに出掛け、山道に迷い込んだことがきっかけで奇妙な体験をする「黒い車」
  • おじいさんの不可思議な体験談「呼び声」
闇のkou
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「小さな墓」は、日本怪談独特の暗く湿った怖さがあります。
昼間は、緑豊かな自然に恵まれた田舎の風景も、夜の闇に包まれれば、異界の様相を私たちに見せつけます。
このエピソードを読むと、山へ訪れたり、田舎へ帰った時にはついつい思い出して怖くなってしまうかもしれません。

人の怪

怪談とは、人が体験し、人が語るものであり、その根源は人が持つ我や情念が引き起こしているのかもしれません。
最終章となる本章では人にまつわる怪異談が語られます。

  • 写真現像中の恐怖「遊園地の写真」
  • ある祭壇を写した一枚の写真の怪現象「実家の心霊写真」
  • 葬儀参列者集合写真撮影中に起きた不可思議で、温かくもある出来事「ファインダー」
  • 前世の記憶を見ることが出来るという動画を見たことから奇妙な体験をする「ある動画」
  • 恋人との別れの寂しさをまぎらわすため、ある「おまじない」を実践すると・・・「おまじない」
  • 猫を異様なまでに可愛がる、ある僧侶の秘密「僧侶と猫」
  • ある雨の降る深夜、マンションの一室のインターホンを鳴らすものとは「インターホン」
  • 特別な能力をもつおばあさんとの不可思議であたたかい思い出「百合の花」
  • 離婚した夫婦が織りなす寂しくも不思議な奇談「離別」
闇のkou
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「ファインダー」は、怖くもあり、とても胸が温かくなるエピソードです。
今は亡き故人の思い出は、人それぞれでしょう。
天寿を全うしこの世を去る人と、残されつつも故人の良き思い出とともに生きていく人との思いが交錯し、とても美しい光景をつむぎ出しています。
涙なくしては、読みすすめることは出来ないでしょう。

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怪談を読み終えて

本書で語られる怪談の数々は、実際に幽霊が目の前に現れるなどというもののたぐいではなく、何気ない日常の隙間に無味乾燥に入り込む異質で、まとわりつくような恐怖体験といえます。

「怖いもの見たさ」という言葉もありますが、不可思議で奇妙、得体のしれないものといったおおよそ、理解できない説明しきれない事象というものに人は本能で恐怖を感じます。

「怪談」は生きている限り私たちの本能を揺さぶり続け、私たちの興味を惹き付けてやまないのかもしれません。

闇のkou
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ぜひ本書、「怪談 びたり」を手に取っていただき、誰にもある日々の日常、いつもの光景の中にふっと溶け込むように存在し、じわじわと侵食するように忍び寄る深淵なる恐怖の世界をじっくりと堪能して頂いてはいかがでしょうか?
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。

怪談びたり kou'sレビュー
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